こどもの健康を一番に、宮城県名取市の小児科、かとうこどもクリニック

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はじめに

小児科医として、私のエピソードの一端をご紹介します。多少、風呂敷を広げる内容になるかもしれませんが、ご容赦ください。

内視鏡検査などを通して多くの小児を診断・治療してきましたが、当時、内視鏡検査を行う小児科医はわずか数人で、まさに手探り状態でのスタートでした。幸い、内視鏡検査を手掛ける小児科医も増えてきており、少しは日本の小児科医療に貢献できたのではと思っています。日常診療では腹部所見を「泣かせることなく」正確にとること、そしてそれが適正な診断・治療への早道であることを痛感しています。そのため、かつて在籍したカナダ・トロント小児病院をまねて、私服で診療を行っています。また、診察室でのお子さんとの会話に努めています。本業を忘れて話が長くなることもありますが、出来るだけ子供さんの笑顔を引き出すことを大切にしています。

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定期接種と任意接種に医学的な優劣はありません。ようやく、ロタワクチンが定期接種化しました。おたふくかぜワクチンは任意接種のままですが、これを含めて当院がかかりつけのお子さんのワクチン接種率は非常に高く、ご家族のワクチンに対する意識の高さを示すものと誇りに思っています。今後も、丁寧でわかりやすい説明に努めて参ります。

トロント研究こぼれ話

私の専門分野について少しお話します。専門は消化器病学および栄養学で、消化性潰瘍や炎症性腸疾患をはじめ様々な疾患を診断・治療してきました。現在は消化性潰瘍や胃炎の病因として研究してきたヘリコバクター・ピロリ(通称、ピロリ菌)感染症をはじめ、消化管感染症がライフワークになっています。

トロント小児病院(写真)は、その規模やレベルの高さで世界中の小児科医の憧れとなっています。私はその研究所(感染・免疫部門)で、ピロリ菌および病原性大腸菌O157:H7の基礎研究を行いました。研究室のボスは小児のピロリ菌研究の第一人者Sherman教授で、彼が客員研究員として私を受け入れてくれました。話が飛び恐縮ですが、日本でも話題になった溶血性尿毒症症候群(HUS)は重篤な疾患で、私も悪戦苦闘してきました。原因は大腸菌O157:H7などが出すShiga毒素ですが、それを世界で初めてLancetに報告したのはカナダのKarmali博士です。ある時、Sherman教授が彼は研究室仲間だと言って、私に引き合わせてくれました。3人で小児病院近くの回転すしレストランで酒を酌み交わし、素晴らしい一時を過ごしました。博士はとても温厚な人柄で、日本酒、それも「Nada」というくらいの日本通でした。ちなみに、Shiga毒素は赤痢菌の発見者で仙台市名誉市民第一号となった志賀潔博士に因っています。実験中のラボ仲間との雑談で、私が志賀博士と同じ仙台出身で小学校も博士(片平丁小)の近く(木町通小)であることを告げると、研究室内に大歓声が上がりました。私も小学生の時に伝記を読みましたが、志賀博士は大腸菌研究者にとってまさに英雄でした。トロントでShiga毒素の研究に従事し、博士と再会できたことに不思議な縁を感じています。

トロント小児病院外観
トロント小児病院内装

話は変わりますが、国際活動の一環として、小児の胃食道逆流症GERDの国際定義の作成に参画しました(Am J Gastroenterol 2009)。私はアジアで唯一の委員に選ばれ、約半年にわたるメール上での激しい議論・意見集約に加え、ロンドンとトロントでそれぞれ3日間、朝9時から昼食を挟んで夕方5時まで缶詰状態で議論しました。英会話に難がある私にとっては大変でしたが、世界的に著名な小児消化器病医に出会うこともできエキサイティングな経験となりました。

ピロリ菌研究余談

仙台で立ち上げた第1回日本小児H. pylori研究会において、世界に先駆けてピロリ菌の小児ガイドライン(加藤晴一、他.日本小児栄養消化器病学会雑誌)を作成し、その後、改訂を行いました(加藤晴一、他.日本小児科学会雑誌)。そして、2018年、日本小児栄養消化器肝臓学会のガイドライン改訂委員長として、2回目の改訂を行いました。ガイドラインは同学会のホームページ、また厚労省委託事業・日本医療機能評価機構Mindsガイドライン・ライブラリに収載されていますので、ご一読いただけたら幸いです。この改訂ガイドラインにはメディアも強い関心を寄せ、朝日新聞の第1面を飾りました(2018年11月13日付)。なお、この英語版も作成しました(Kato S, et al. Pediatr Int 2020)。ガイドラインを海外に向けて発信することは私の長年の夢の一つであり、まさにDreams come true! です。

ピロリ菌といえば、発見者であるオーストラリアのMarshall、Warren両教授はノーベル生理学・医学賞を受賞しました。そして、2006年に日本のオーストラリア大使館主催の受賞記念パーティーが開かれました。医学研究者を含めて数十名の科学者が集い、私にも招待状が届きました。この年は日豪の友好交流30周年に当たっており、受賞パーティーはその記念行事の一環のようでした。東京タワーの足元にある大使館に足を踏み入れると、そこにノーベル物理学賞受賞者の小柴先生のほかに、宇宙飛行士の毛利衛さんの姿がありました。その瞬間、私は「少年」に戻り、毛利さんに写真撮影をお願いしました。彼はあの笑顔で快諾してくれ、この時のツーショットは私の宝物の一つになっています。

道草ばかりで恐縮ですが、小児、特に中高生の鉄欠乏性貧血IDAにおいて、特に再発を繰り返す例や、鉄剤治療に反応が悪い難治例にピロリ菌が関与していることわかってきました。長い間、ピロリ菌がIDAにどのようにかかわっているのか不明でしたが、ニューヨーク大学と杏林大学グループの協力を得て、ピロリ菌のsabA遺伝子がIDAの発症に関与することを世界で初めて報告しました(Kato S, et al. PLoS One 2017)。ピロリ菌は小児期のIDA診療において、極めて重要なキーワードとなっています。

おわりに

今まで行ってきた研究や診療、そして世界で活躍する著名な研究者との交流を通じ強く思うことは、医療は徹底した根拠(エビデンス)に基づく必要があることです。当たり前のことですが、小児科医として日進月歩の研究成果を知り、それを日常診療に生かすことを肝に銘じています。そして、地域医療に貢献したいと考えています。

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■略歴

昭和54年 東北大学医学部卒
昭和59年 東北大学病院小児科・助手
平成 1年 仙台市立病院小児科・医長
平成11年 東北大学病院小児科・講師
平成13年 同  外来医長
平成14年 東北大学医学部小児科・教育担当
主任
平成16年 カナダ・トロント大学医学部・ 客員教授
トロント小児病院研究所・客員研究員
平成17年 東北大学病院小児科・講師(復職)
などを経て
平成21年 かとうこどもクリニック・院長
杏林大学医学部・非常勤講師
(感染症学)
平成21-
   22年
日本学術振興会
科学研究費委員会専門委員


■主な所属学会

国内 日本小児科学会(専門医)
日本小児栄養消化器肝臓学会(元学術委員長、ガイドライン 改訂委員長)
日本ヘリコバクター学会(元理事、名誉会員)
日本消化管学会(元評議員、功労会員)
日本小児H. pylori研究会(代表世話人、第1回会長)
日本小児内視鏡研究会(世話人、第24回会長)
海外 米国消化器病学会AGA(国際会員)
北米小児栄養消化器肝臓学会NASPGHAN(国際会員)
米国微生物学会ASM(会員)

■著書・主な論文

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■受賞

平成10年 仙台市立病院職員顕彰・最優秀賞(仙台市)
平成11年 Helicobacter pylori 感染の診断と治療に関するコンセンサス会議
’99(アジア・太平洋消化器病学会共催)・会長賞
平成16年 日本小児栄養消化器肝臓学会・最優秀演題賞
平成21年 日本ヘリコバクター学会・上原H. pylori 賞最優秀賞